かにとBitCoinと2ヶ月で消滅したファンドの話

 昨年末「もう大人だし金で遊びたい」「金融商品こそ最大の娯楽だよネー」という会話があり、みんなの金を集めてハイリスク商品に投資しまくってジェットコースター気分を味わうことを目的としたプライベートファンドが創設された。一口2万円。運用目標は毎月200%、年末には8192万償還という展望を掲げつつ「特等席で自分の金が溶けるのを眺める権利を買ったと思え」とリスクが説明された。18万集まった。「忘年会分くらい残るといいね」「かに食べたい」「運用成績によってかにのランクを変えよう」

 最初の投資先として乱高下していたソシャゲ株が選ばれた。うまいこと儲かり、18万が20万になった。「やったぜ。次は?」「なるべくハイリスクそうなのがいいね」「BitCoinじゃね?」「いいね!」国内に拠点があるBitCoin取引所 Mt.Gox に口座開設が申請された。手続きには妙に時間がかかり、申請時に $700 程度だった1コインの価格は開設完了時には $1000 を超えていた。「儲け損ねたな」「いま買うのはさすがに怖くね?」「個人で買えないようなハイリスク商品を買うためのファンドですよ」全額をはたいて2コイン弱が購入された。

 2月7日、$650まで下落。この時点ではまだ笑っていられた。「まあ2倍にすべきところが3倍になっただけだね」「年末には8192万だし問題ない」

 2月8日、Mt.Goxが出金を停止。まだ危機感は乏しかった。「BitCoinで持ってれば取引所が止まっても関係ないんじゃないの?」「いやBitCoinそのものは手元にないよ。預金封鎖と同じ」「じゃ損切りもできないんだ...」

 2月12日、ロシアがBitCoinを違法化。その後も相場は下がり続けた。

 2月24日、ついに $150 になった (Mt.Goxのみ。他の取引所では$500を保っていた)。「ジェットコースターじゃなくてフリーフォールだったね」「日本円で3000円弱か。本当にかに食ったら終わりだな」「いやいやまだまだ、これから大逆転さ」

 2月25日。Mt.GoxTwitterアカウントは消され、サイトに繋がらなくなった。「0円になりました」「はえーよ。忘年会どうすんだよ」「沢蟹釣りにいくか」

 おしまい。